システム開発にいると「常に時間が足りない」。ショートカット、多重タスク、コピペ、休日出勤…それでも終わらない。けれど、長時間労働は一定の閾値を超えると生産性が逓減し、むしろ品質や安全を損ないます。スタンフォードの研究でも、長時間になるほどアウトプットの伸びは鈍化(非線形)することが示されています。siepr.stanford.edu
本稿では、時間が足りない“業界病”の原因を分解し、個人/チーム/組織の3レイヤで今日からできる対策をまとめておきます。
症状チェック(3分)
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会議と通知でまとまった集中時間(60–90分)が週に2ブロック未満
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タスク着手→中断→別件→戻る…のコンテキストスイッチが多い(平均、人は中断後もとの作業に戻るまで約23分かかるという報告)Gallup.com+1
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WIP(同時進行案件)が常に満杯で、リードタイムが読めない(Little’s Law:WIPを絞るとサイクルタイムが短くなる)SixSigma.us+1
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残業で“間に合わせる”文化がデフォルト(日本では残業の法定上限:年720h、2–6か月平均80h/月、単月100h未満)厚生労働省+1
原因のコア
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中断の連鎖:通知・口頭割り込み・未整備のレビュー動線。集中の“助走”が毎回失われる。Gallup.com+1
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WIP過多:同時に抱える案件が多すぎ、平均リードタイムが延びる(Little’s Law)。Project Management Stack Exchange
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長時間依存:時間を足す発想。だが一定時間を超えると限界効用は逓減し事故・不具合リスクも上がる。siepr.stanford.edu
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制度と運用のギャップ:残業上限の法整備は進んだが、現場の“名ばかり管理職”や隠れ残業が問題化。フィナンシャル・タイムズ
解決:今日からやること(3レイヤ)
個人(明日からの儀式)
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フォーカスタイムを先にブロック:1日90分×2コマをカレンダー死守。
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通知の窓口を1つに:Slack/Teamsはバッチ受信(例:毎時0分)。
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タスクは“着手数<=3”:WIPを数字で可視化。SixSigma.us
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ポモドーロ×小結:25分集中+5分で「次の最小一歩」を書き残し、中断復帰を早くする(“再開コスト”低減)。
チーム(1~2週間で効く型)
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WIP制限×カンバン:カラムごとに上限を設定し、詰まり=ボトルネックを議論の起点に。SixSigma.us
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レビュー予約制:レビューは“いつでも声かけて”をやめ、1日2回のレビュー便に集約(割り込み削減)。
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会議は目的と成果物だけ:目的・決定事項・宿題・締切の4点テンプレを全会で共有。
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リードタイム計測:着手→完了の中央値を毎週確認。増えたらWIPを減らす。
組織(四半期で定着)
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残業上限の“運用ルール化”:720h/年・平均80h/月・単月100h未満の法基準に、追加で社内基準(たとえば“単月45h超は要レビュー”)を設ける。厚生労働省
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集中時間の全社ルール:全社“Do Not Disturb”帯(例:午前10–12時)を宣言。
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ロードマップの“捨てる勇気”:四半期ごとにやらないリストを公式化。
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自動化と標準化に投資:ビルド・テスト・配布のCI/CD、テンプレ/共通部品の整備。
計測ダッシュボード(おすすめKPI)
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フォーカスタイム総量(人・週):目標 8–10h/週
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中断回数/人・日(DM/メンション/招集)
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平均WIP(人が同時に抱えるチケット数)
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リードタイム(中央値)
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残業時間(法上限に対する乖離モニタ)厚生労働省
まとめ
「時間を増やす」ではなく、中断とWIPを減らし、集中と流れを守る。それが、忙しいのに進まない現場を救う最短ルートです。長時間で押し切る発想から脱し、仕組みで前に進みましょう。siepr.stanford.edu+2Microsoft+2
補足:制度・データの要点(引用)
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日本の残業上限:年720h、2–6か月平均80h/月以内、単月100h未満。2019年(中小は2020年)から順次適用。厚生労働省+1
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長時間労働と生産性:時間が延びるほど限界生産は逓減(Pencavel, Stanford)。siepr.stanford.edu
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中断からの復帰コスト:平均23分15秒の再集中時間が報告。