近年、企業のITセキュリティは大きな転換期を迎えています。
従来の「社内ネットワーク=安全」「社外=危険」という考え方は、リモートワークやクラウド利用の拡大により通用しなくなりました。
そこで注目されているのが「ゼロトラストセキュリティ(Zero Trust Security)」です。
本記事では、ゼロトラストの基本概念、VPN不要の理由、導入のメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
ゼロトラストセキュリティとは?
「ゼロトラスト(Zero Trust)」とは、“何も信頼しない” を前提にした新しいセキュリティモデルです。
Googleが提唱した「BeyondCorp」モデルをきっかけに広まり、現在では多くの企業で採用が進んでいます。
従来型セキュリティとの違い
比較項目 | 従来型(境界防御) | ゼロトラスト |
---|---|---|
基本概念 | 社内=安全、社外=危険 | すべての通信を検証 |
認証方法 | 社内LAN接続で信頼 | ユーザー・端末ごとに常時認証 |
アクセス制御 | ネットワーク単位 | アプリ・データ単位 |
保護対象 | ネットワーク境界 | データ・アイデンティティ |
従来は「VPNを通して社内ネットワークに入れれば安全」と考えられていましたが、ゼロトラストではVPNで社内に入っても無条件に信頼しないという思想が基本です。
VPNが不要になる理由
ゼロトラストモデルでは、VPNによる「内部接続の壁」が不要になります。
理由は以下の通りです。
① クラウドサービス中心の業務環境
Microsoft 365やGoogle Workspace、Salesforceなど、業務の中心がクラウドに移行しています。
これらはインターネット経由で利用できるため、VPNを経由する必要がありません。
② IDベースのアクセス制御
ゼロトラストでは「ユーザーID+端末+状況」を組み合わせてアクセスを判断します。
これにより、社内外を問わず一貫したセキュリティポリシーを適用できます。
③ セッションごとの継続的認証
アクセス時だけでなく、利用中もユーザーや端末の状態を監視し、異常があれば自動的に遮断することが可能です。
VPNのように「一度つなげば自由にアクセスできる」というリスクを排除します。
ゼロトラストの主要な構成要素
ゼロトラストを実現するためには、以下の複数の技術を組み合わせることが重要です。
要素 | 概要 |
---|---|
ID管理(IAM) | ユーザーやデバイスを認証・認可する中核機能 |
多要素認証(MFA) | パスワード+生体認証などで本人確認を強化 |
エンドポイント管理(MDM/EMM) | デバイスの状態・セキュリティパッチを管理 |
アクセス制御(CASB/ZTNA) | クラウドや内部システムへの安全な接続を制御 |
監視・ログ分析(SIEM/SOAR) | 不審な挙動を検知し自動対応 |
導入メリット
メリット | 内容 |
---|---|
セキュリティ強化 | 内部からの不正アクセスや情報漏洩も防止 |
リモートワーク対応 | 社外からでも安全にアクセス可能 |
運用コスト削減 | VPN機器の管理・保守が不要 |
柔軟なアクセス制御 | ユーザー単位・端末単位で細かく権限設定可能 |
導入時の注意点・デメリット
課題 | 内容 |
---|---|
初期コスト | ID管理やMFA導入にコストがかかる |
運用負荷 | ポリシー設計・認証ルールの調整が必要 |
利便性とのバランス | 厳格すぎる設定は業務効率を下げる可能性 |
ゼロトラストは「すべてをブロック」する思想ではなく、リスクを最小限に抑える最適バランスを設計することが重要です。
代表的なゼロトラスト製品
製品名 | 提供元 | 特徴 |
---|---|---|
Microsoft Entra(旧Azure AD) | Microsoft | ID管理・MFA・アクセス制御を統合 |
Google BeyondCorp Enterprise | VPNレスで安全なリモートアクセス | |
Zscaler Internet Access (ZIA) | Zscaler | クラウド経由でのセキュアWebアクセス |
Okta Identity Cloud | Okta | ID統合・シングルサインオン機能に強み |
まとめ
ゼロトラストセキュリティは、
「VPNで守る」時代から「すべてを検証する」時代への大きな転換です。
-
🧩 すべての通信を信頼しない
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🧩 IDとデバイスを常に検証する
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🧩 クラウドとリモートを前提に設計する
これらを実践することで、現代の分散化したIT環境でも高いセキュリティを維持できます。
今後の企業IT戦略において、「ゼロトラスト」はもはや選択ではなく“前提”と言えるでしょう。