企業システム間のデータ連携で定番の HULFT(ハルフト)。
日次バッチや帳票ファイルの受け渡しで使っていると、「転送が遅いのでは?」と感じることもあるでしょう。
この記事では、HULFTの転送速度の目安と、大容量ファイルを高速・安定的に送信するためのチューニング術をまとめます。
さらに、WinSCP や AWS CLI との比較も紹介します。
1. HULFTの転送速度の目安
HULFT自体は内部的に64bit整数でファイルを扱えるため、理論的な制限はほぼありません。
実際の速度は ネットワーク帯域 × HULFTの処理オーバーヘッド に左右されます。
📊 ファイルサイズ別の目安(1Gbps環境・実効70〜80%の場合)
ファイルサイズ | 転送時間の目安 | 備考 |
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100MB | 1〜2秒 | LAN環境なら一瞬 |
1GB | 10〜15秒 | WAN越しだと数分に延びることも |
5GB | 1〜2分 | S3の1オブジェクト上限(5TB)には余裕あり |
💡 100Mbpsの回線では、1GB送信に2分前後かかります。
つまり「回線帯域の影響が支配的」と言えます。
2. 回線速度ごとの目安
HULFTのオーバーヘッド込みで実効値を 70〜80% と仮定した場合の目安です。
回線速度 | 理論値 | 実効値(目安) | 1GB転送時間 |
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1Gbps回線(LAN内) | 125MB/s | 90〜100MB/s | 約10〜12秒 |
100Mbps回線(VPN/クラウド接続) | 12.5MB/s | 8〜10MB/s | 約100〜120秒(2分程度) |
50Mbps回線(遅めのVPN) | 6.25MB/s | 約5MB/s | 約200秒(3〜4分) |
10Mbps回線(制限回線など) | 1.25MB/s | 約1MB/s | 約15〜20分 |
チューニングで改善できるのは「オーバーヘッド部分」ですが、根本は回線速度に依存します。
3. HULFTと他の手段の速度比較
同じ回線での「体感スピード」の比較イメージです。
手段 | 転送速度の傾向 | 特徴 |
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HULFT | 実効70〜80%(安定) | 商用の運用性・再送制御が強い。監査/ジョブ連携向き |
WinSCP (SFTP/FTP) | 実効50〜70% | GUIで扱いやすいが大容量の再送制御は弱め |
AWS CLI (S3 cp/sync) | 実効80〜90%(並列化可) | 高速だがジョブ管理や監査は限定的 |
特に基幹システム間の「失敗できない転送」ではHULFTが選ばれる理由があります。
4. 転送速度に影響する要因
HULFTの転送性能は、次の要素で大きく変わります。
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ネットワーク帯域:1Gbpsか100Mbpsかで10倍以上の差
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HULFTのバッファサイズ:デフォルト64KB → 1MBに拡張すると効率UP
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再送制御:エラー時の挙動設定によって安定性と速度が変わる
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ファイルシステムのI/O性能:HDDよりSSDの方が有利
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暗号化や圧縮の有無:CPU負荷が上がると転送速度が落ちる
5. 高速化のためのチューニング術
大容量ファイルを送る際に有効なチューニング方法を整理します。
(1) バッファサイズ調整
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パラメータ
SEND_BUFFER_SIZE
を 1024KB(1MB)程度 に拡張 -
WAN越しでもスループットが改善
(2) マルチパートアップロード(S3利用時)
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HULFT Storage Option では 並列転送 に対応
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1GBクラスなら1パートで十分だが、数GB以上なら 4〜8並列 に設定すると効果大
(3) 部分再送を有効化
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転送途中で中断しても 途中から再開 できる
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WAN経由や夜間バッチでの安定性向上に必須
(4) 圧縮の利用
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CSVやテキストは圧縮転送で大幅短縮
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バイナリ(PDFやZIP)は圧縮効果が薄い
(5) ネットワーク調整
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TCPウィンドウサイズやNIC送信バッファを拡張
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Linux例:
6. 運用上の工夫
速度チューニングだけでなく、運用面でも工夫が必要です。
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ピーク時間を避けてスケジューリング(夜間バッチに実行)
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再送回数を3回程度に設定し、エラー時のリカバリを自動化
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ログ監視(HULFTの送受信ログ+S3側のCloudWatch)で転送成功を二重確認
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日付付きファイル名で履歴管理を容易に
まとめ
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HULFT自体は大容量に強く、理論上は数TB〜EBまで対応可能
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実効速度は 回線帯域 × バッファ調整 × 再送設定 がカギ
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100MBなら数秒、1GBなら十数秒〜数分 が目安
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HULFTは最高速よりも「確実性・運用性」を重視する製品
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バッファ拡張・並列化・部分再送 で安定高速な運用が可能